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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)2145号 判決 1949年12月13日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人西村廣夫、同池島至、同土田重信の弁護人八並達雄、同米村嘉一郎の上告趣意第一点について。

所論は、住居侵入についての原判示は犯罪の要件を充足せず原判決には理由不備の違法があるというのである。しかし、原判決は、被告人等が他の共犯者と強盗を共謀して判示被害者方に侵入した事実を明らかにしているのであるから、その所為自体が刑法第一三〇條に規定する「故ナク人ノ住居ニ侵入シ」たものに当るこというまでもない。されば原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

同第二点について。

本件の予審請求書には、所論住居侵入の事実が記載されているのであるから、右事実についても公訴の提起があったものと認められる。仮りにこの点について起訴がなかったとしても、原判決は住居侵入の所為を起訴された強盗の所為の手段たる関係にあるものと認めて刑法第五四條第一項後段第一〇條により強盗罪と一罪の関係にあるものとして所断したのであるから、審判の請求を受けない事実について審判したものではなく、原判決には所論のような違法はない。

同第三点について。

記録を調べてみると、原審の裁判長が被告人池島、土田の両名に対して、その氏名、年齢、職業、住居、本籍および出生地について訊問し、右被告人等が答弁しているのは、原審第二回公判廷においてだけであることが認められる。されば、所論の原審第五回公判調書において右被告人等のこの点に関する答弁を引用するに際し「第一回公判廷」において述べたところと同様であると記載した「第一回公判廷」とあるのは「第二回公判廷」の誤記であること明らかである。それゆえ、原審には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

同第四点について。

被告人等に対する所論予審第二回訊問調書において、予審判事が所論の強盗被害附近見取略図、現場略図および第一回犯罪一覽表提出始末書を被告人等に示して訊問しているにかゝわらず、原審は公判廷における証拠調に際して右略図および始末書につき取調をしていないこと所論の通りである。しかし、右予審訊問調書に記載された供述の内容は右略図を除外しても明らかな部分があり、また右始末書は被告人等が提出した強盗金品に関するものであって、原判決はこれらの書面に関係のない供述記載部分を証拠として引用したものであることは原判決の証拠説明自体から明らかである。されば、原審が前記予審訊問調書自体につき証拠調をした以上、これを証拠に採用しても所論のような違法はないから論旨は理由がない。

同第五点について。

原判決が、証第一一号の刄渡り六寸の匕首一振を没收する理由として右匕首が被告人以外の者に属しない旨説示したこと並びに吉岡義夫が原審において共同被告人でなかったことも所論の通りである。しかし、右匕首が、所論のように吉岡義夫の所有物であったとしても、同人は本件犯罪の共犯者として被告人等と共に第一審裁判所に起訴せられた共同被告人であること記録上明らかであるばかりでなく、原判決の犯罪事実摘示中には「原審相被告人吉岡義夫より」云々と記載されているから、没收の理由に「被告人以外の者」とある被告人には右吉岡義夫をも含む趣旨であることが窺われる。されば、原審が右匕首を没收したことは適法であって、原判決には所論のような違法はない。

同第六点について。

原判決において、被告人等が宮本真吉等所有の現金その他衣類雜品約八〇数点を強取した事実を認定する証拠として引用した宮本真吉に対する司法警察官の聽取書によれば、右強取物件の点数が八六点であることが認め得られる。所論は、洗濯石鹸一打を一二点と計算しないで一点とした立論である。されば論旨は理由がない。

同第七点について。

所論は、事実審たる原審の自由裁量に委ねられている証拠調の限度を非難するものであって、適法な上告理由ではないので採用することができない。

被告人吉岡義夫の弁護人高木右門の上告趣意第一点について。

原審における所論第九回公判調書が引用した原審第二回公判調書を調べてみると、立会檢察官は同公判廷において第一審判決摘示犯罪事実と同旨の被告事件を陳述して、これが審判を求めた旨の記載がある。されば、原審には所論のような違法はない。論旨は、記録を誤読した立論と思われる。

同第二点について。

原審において判事の更迭があって第五回公判期日と第九回公判期日における裁判所の構成に変動のあったこと並びに第九回公判期日においては單に前回開廷後引続き一五日以上開廷しなかった理由だけで公判手続を更新したことは所論の通りである。しかし、公判手続を更新すべき事由のあったときはその手続を更新しさえすれば所期の目的を達するのであるから、その事由までも正確に公判調書に記載する必要はない。そして、同日の公判調書に記載された裁判所の構成と原判決の署名とを対照すれば審理に関與した裁判官が判決に関與したことも明らかである。それゆえ、原判決には所論のような違法はない。

同第三点について。

刑訴應急措置法施行前に作成された被告人又は証人に対する予審訊問調書並びに司法警察官の聽取書が同法施行後においても証拠能力を有することについては、すでに当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第二四三号同二三年四月一七日第二小法廷判決、同年(れ)第五七〇号同年一〇月二日第二小法廷判決)とするところであって、これを変更する必要を認めない。されば、原審が所論の証拠を他の証拠と綜合して判示事実を認定したことは、少しも違法ではない。また、所論の強取した金額の点については、原審は被告人の原審公判廷における供述によらないで、宮本真吉が司法警察官に対して供述した点を措信して事実を認定したものであることは原判示自体に徴して明らかであるから、原判決が証拠によらないで事実を認定した違法があるとの論旨も理由がない。

同第四点について。

所論は、予審訊問調書並びに司法警察官の聽取書の証拠能力を否定することを前提としたものであるが、右各書類の証拠能力があることは前記第三点について説明した通りであるから、論旨は理由がない。

よって、本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴第四四六條に從い、主文の通り判決する。

以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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